レジの横に、電源すら入っていないタブレットが置いてある。
そんな光景を、個人店舗の現場でよく見かける。導入した当初はあんなにワクワクしていたのに、いつの間にか使わなくなってしまった高機能システム。
「自分がデジタルに疎いから」「使いこなせない自分が悪い」と思っていないだろうか。
違う。悪いのはあなたではない。そのツールが「現場」を見ていなかっただけだ。
失敗の理由① 「多機能」が「接客」を殺している
デジタル化ツールを導入した店舗が最初につまずくのが、機能の多さだ。
決済のたびに画面を何度もタップして、確認して、またタップ。その間、店主の目はずっと画面を向いている。お客様の顔を見る時間がなくなる。
「いらっしゃいませ」と言いながら、頭の中はシステムの操作手順でいっぱいだ。
1分1秒を争うピーク時に、なぜ店主がシステムの事務作業をしなければならないのか。機能が多いほど、店主とお客様の会話は減っていく。
パン屋の朝のラッシュを想像してほしい。7時〜9時の2時間で100名が来店する。1人あたりの対応に余分な10秒がかかるだけで、合計1,000秒・約17分が事務作業に消える。その17分、店主はお客様の顔を見ていない。
失敗の理由② お客様に「お願い」しなければならない負担
デジタル化が失敗するもう一つの理由が、お客様への負担だ。
「アプリをダウンロードして、会員登録して、パスワードを設定して、メール認証して……」
常連のお客様にそんな面倒なことを頼むのは気が引ける。その優しさが、結局システムの利用を遠ざけてしまう。
「せっかく導入したのに、お客様に登録してもらえない」という状況が続くと、店主のモチベーションが下がる。使われないシステムは、やがてレジ横のホコリを被ったタブレットになる。
お客様に「努力」を強いるシステムは、個人店の空気感には馴染まない。
失敗の理由③ 「データ活用」という名のサービス残業
「詳細な客層データが取れます」「売上分析ができます」
高機能システムの売り文句はいつもこうだ。しかし現実はどうか。
閉店後にグラフを眺める体力が残っているだろうか。データを見るだけで満足して、次の施策を打つ時間がないなら、その入力時間は無給の労働と同じだ。
月に50名のお客様を持つサロンで、スタッフが毎日の閉店後に10分データ入力をしているとする。月に約5時間。時給1,500円換算で月7,500円分の時間が、誰も見ないグラフのために消えていく。
データは「見るもの」ではなく「使えるもの」でなければ意味がない。
回数券・ポイントカード・会員証を、1つのアプリで管理する
マタキテ・パスの詳細を見る →マタキテ・パスが「あえて何もしない」部分を作った理由
私がマタキテ・パスを開発する際、あえて多くの機能を捨てた。
回数券の付与・消化・残数確認。ポイントの付与・消化。お客様の来店履歴。この3つに絞った。
なぜか。店主に「接客の時間」を返したかったからだ。
QRをスキャンする3秒で操作が終われば、残りの時間で「今日もいい天気ですね」と言える。その一言がお客様との関係を深める。デジタルツールの本当の役割は、この会話を生み出すことだと思っている。
データ分析も、店主に複雑なグラフを見せるのではなく、シンプルに伝える。現在実装予定の機能として、来店回数が一定を超えると画面に「祝!VIP昇格」と表示される仕組みを開発中だ。難しい分析は不要だ。画面を見るだけでVIPのお客様がわかる。その瞬間が、店主とお客様の特別な会話のきっかけになればいい。
デジタル化の成功とは何か
売上が上がること。それも大切だ。しかしデジタル化の本当の成功は、その前にある。
接客がもっと楽しくなること。お客様の顔を見る時間が増えること。閉店後に疲れ果てて画面を見なくていいこと。
難しいことは機械に任せて、店主は店主の仕事に集中する。それがデジタル化の理想の姿だと思っている。
レジ横のタブレットにホコリを被せてしまった経験があるなら、それはあなたのせいではない。次に選ぶツールは、もっとシンプルでいい。
まとめ
- 多機能が接客の時間を奪い、お客様との会話が減る。1人あたり10秒の余分な操作が17分の損失になる
- お客様に負担をかける登録フローが導入を遠ざける。使われないシステムはホコリを被る
- 誰も見ないデータ入力が月7,500円分の閉店後サービス残業になる
- マタキテ・パスはQRスキャン3秒・3機能に絞ることで接客の時間を返す設計だ
- デジタル化の成功は売上より先に「接客が楽しくなること」にある
失敗したのはあなたのせいではない。現場を見ていないツールのせいだ。デジタル化は「引き算」でいい。シンプルなツールが、接客を取り戻してくれる。