「10回分で1回分無料にしています」

そう話してくれたサロンオーナーに、なぜその設定にしたのかを聞いてみた。「なんとなく、他のお店がそうしていたので」

回数券の価格設定を、なんとなく決めてしまっているお店は多い。しかしこの「なんとなく」が、経営を静かに蝕んでいることがある。

回数券の価格設定を間違えると、忙しくなればなるほど利益が削られていく。予約が埋まっているのに手元にお金が残らない。いわゆる「豊作貧乏」だ。マタキテ・パスを開発しながら、多くの店舗の数字と向き合ってきた。今回は持続可能な価格設定の考え方を整理したい。

割引率を決める3つの基準

回数券の割引率は「何のために回数券を売るか」によって変わる。目的別に3つの基準で考えると整理しやすい。

基準①:新規のお客様向け「3回・5回券」(割引率10〜15%)

新規のお客様が2回目以降も来てくれるかどうかは、最初の数回で決まることが多い。3回来れば習慣化する。まずは「通ってもらうこと」に投資する設定だ。この段階では割引率を高めに設定しても、長期的なリピートにつながれば十分元が取れる。

基準②:常連様向け「10回券」(割引率5〜10%)

すでに信頼関係があるお客様に、大幅な割引は必要ない。「端数を切る」程度で十分価値は伝わる。通常5,500円の施術を10回券で50,000円にすれば、1回あたり5,000円(約9%割引)だ。お客様は5,000円お得になり、店舗は50,000円の売上が先に入る。双方にとって合理的な設定だ。

基準③:自分の「時給」を割り込まない

どの設定でも忘れてはならないのが、割引後の単価が自分の技術と時間に釣り合っているかという確認だ。たとえば通常5,500円の施術を20%割引にすると1回4,400円になる。1日6名施術して26,400円。材料費・家賃・光熱費を引いた後に残る金額は、自分が納得できる数字か。割引率を決める前に、この計算を必ずしてほしい。

デジタル化で「安売り」から脱却する

紙の回数券は「安さ」しか売りにできない。「10回で1回無料」「まとめ買いでお得」――これらはすべて価格訴求だ。価格でお客様を引きつけると、より安いサービスが現れたときに流れてしまう。

デジタル化すると、価格以外の価値を提供できるようになる。「忘れる心配がない」「残数がスマホで一目でわかる」「有効期限が近づいたら通知が来る」――これらの体験そのものが価値になる。だから、無理な割引競争に参加する必要がなくなる。お客様が回数券を選ぶ理由が「安いから」ではなく「便利で安心だから」に変わる。これが、安売りから脱却する本質だ。

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ポイントと経験値を組み合わせる(実装予定含む)

さらに一歩進んだ戦略として、回数券の価格を維持しながらポイントで還元する方法がある。来店ごとにポイントを付与して、貯まったポイントで特典と交換する。現金値引き(回数券の安売り)を最小限に抑えつつ、お客様の「得した感」と「通う楽しさ」を最大化できる。

現在実装予定の機能として、来店回数が一定を超えると自動的にVIP昇格する仕組みを開発中だ。VIPになったお客様は永久にVIPのまま降格しない。「ついにVIPになりましたよ!いつもありがとうございます!」と伝えられる瞬間が、お客様の継続来店への強い動機になる。価格の割引ではなく、特別な体験と称賛がリピートを生む。これが理想の形だ。

有効期限という「落とし穴」

価格設定と同じくらい重要なのが、有効期限の設定だ。有効期限のない回数券は、数年後の自分に借金を背負わせるのと同じだ。今から5年後に「10回分使いたい」と言われても、当時の価格でサービスを提供しなければならない。その間に材料費や光熱費が上がっていても、だ。

マタキテ・パスでは法的・経営的な観点から、有効期限の設定を推奨している。最大150日(約5ヶ月)の有効期限を設定できる(実装予定)。150日以内に設定することで、資金決済法の対象になるリスクも回避できる。価格設定と有効期限はセットで考えてほしい。

価格設定は「自分へのリスペクト」

回数券を買ってもらうことは、お客様からの「信頼の先払い」だ。「あなたの技術を、これからも頼りにします」という意思表示だ。その信頼に応えるために、店主自身が笑顔で施術を続けられる価格設定を選んでほしい。

疲弊した店主から生まれる施術より、余裕を持った店主から生まれる施術の方が、お客様にとっても価値がある。適切な価格設定は、店主へのリスペクトであると同時に、お客様へのリスペクトでもある。

まとめ

安売りは正義ではない。店主が笑顔で続けられる価格こそが、お客様にとっても最高のサービスになる。